2024年の執筆文献の振り返り
毎年恒例の執筆文献の振りかえり投稿です。今年はBlogにもアップしてみました(最近全く動かせてないので)
ただ、今年は後述のとおり、NBLの連載が中心となった1年でした。連載は毎月〆切との戦いで大変だったのと、出産・育児やTOEFLの勉強などで可処分時間が限られ、執筆活動を少し緩めてしまった感はあります。反省です。
来年は引き続きNBLの連載を頑張るのと、関与した書籍が2~3冊出る予定ですので、こうご期待ください。
それでは各文献の振り返りです。
◆「担保の基礎と実務Q&A」(金融財政事情研究会)
https://store.kinzai.jp/public/item/book/B/14445/
⇒所属している第二東京弁護士会倒産法研究会の執筆企画に参加しました。担保の基本的なところから、かなり実務的・個別的な内容まで採り上げられており非常によい1冊になったのではと思います(書式も豊富です。)。
私自身も、担保は業務ではよく使うためある程度理解しているつもりでしたが、執筆のために色々な文献を参照し、非常に勉強になりました。特に他の事務所の先生と一緒に執筆をすると、自分がいままで知らなかった文献を指摘いただけたりするので、新鮮でした。
≪NBL連載:契約書レビューの体系と実践≫
◆「第3回 契約書レビューにおける総論的視点(3) その他契約書条項レビューにあたって意識すべき点」(1258号)
⇒この回では契約書レビューをするにあたってどのような切り口(視点)があるかを解説しています。何となく自分の中で整理していたものを言語化する作業で大変でしたが、非常によい整理ができたのではと思っております。
◆「第4回 契約書レビューにおける総論的視点(4) 契約書の項目その他基礎知識①」(1260号)
⇒前文・後文・署名欄など契約書の項目について解説しら回です。地味に締結権者(代表取締役以外が押印者の場合、法的にどう整理されるか)は、ふと考え始めててみると、厳密には分からない論点なので、今回整理を示すことができた点で意義がありました。
◆「第5回 契約書レビューにおける総論的視点(4) 契約書の項目その他基礎知識②」(1262号)
⇒「及び」などの契約用語を解説した回ですが、地味に割印の解説の中で関連する判例を調べて注で言及できたのが良かったです(脚注芸)。
◆「第6回 損害賠償条項」(1264号)
⇒この回から各論です。損害賠償条項の論点は色々な書籍に散らばっていた印象ですが、それを整理できたのがよかったです。特に、直接損害・結果損害・拡大損害・起因又は関連してなど、契約条項で見かけるけど、法的にどういう整理なのだろうと思う文言について、現状の実務の見解を整理できました。
◆「第7回 契約の目的・秘密保持条項」(1266号)
⇒契約の目的については債権法改正時に色々議論があったのですが、その後あまり実務に進捗はない印象でして、当時自分も色々指摘した立場だったので、現状を文献という形で示すことができたのがよかったです。
秘密保持については、実務上のあるあるになるべくふれるよう努めたのですが、それでも公開後には色々ご意見もいただきまして、今後要アップデートだなっぁと思っております。
◆「第8/9回 契約の目的・秘密保持条項」(1268/1270号)
⇒一緒に執筆した宮本先生がとてもRSを頑張ってくれまして、いつにもまして脚注芸が炸裂した回でした。拙書「改正民法対応 はじめてでもわかる 売買契約書~図解とチェックリストで抜け漏れ防止~」を執筆した際に作成した不可抗力事由一覧を5年ぶりにアップデートできたのもよかったです。現状不可抗力の議論を一番まとめた実務文献だと思いますので不可抗力に困ったらぜひ。
◆「第10/11回 譲渡制限」(1272/1274号)
⇒こちらも債権法改正時に色々議論があった事項ですので、現状の実務動向をはっきりかけてよかったです。一緒に執筆をした吉原先生が譲渡制限オタクで、なかなかの脚注芸も発揮できました。
◆「第12~14回 保証条項」(1276~1280号)
⇒保証については債権法改正時に大きく動きがあり、実務的にも契約書雛形がかなり変わりましたので、新ためてその内容を整理できてよかったです。また、1280号で採り上げた担保保存義務、代位権不行使特約は何となくの理解をしていたものの、債権法改正も踏まえた現状の議論を文献に基づく整理出来てよかったです。
もし興味がある事項があれば、ご連絡くださいませ。
それでは、みなさま良いお年をお迎えください。
「定型約款の実務Q&A」の「補訂版」と「初版(旧版)」を比べてみたのでした
1 はじめに~Q&A本の補訂版でましたね。
2023年8月31日、村松秀樹=松尾博憲著『定型約款の実務Q&A』の補訂版が刊行されました[1]。初版は2018年12月5日の発行ですので、約5年ぶりの改訂になります。
ご承知のとおり定型約款は債権法改正で新設されたわけですが、当初は、解釈に困った際には、立案担当者が執筆した「一問一答」[2]が参照されていました。もっとも、定型約款に絞って掘り下げた検討を行う上記Q&A本(しかも立案担当者が執筆)が刊行されてからは、利用規約[3]等を扱う法務担当者・弁護士の間では、同署が重宝されてきたように思います。
今回の補訂版も、今後の実務で利用されていくことは間違いないでしょう。
2 どこが変わったの?
同書の帯には以下の記載があります。
「定型約款の新設・施行から3年。信託取引に関する記述の追加のほか、定型約款に関する規定の解釈が争われた裁判例を踏まえた補訂版。」
なるほど、信託取引の点と、裁判例も追加されたことが分かります。他方で、ページ数を見ると初版が205頁で、補訂版が211頁です。そこで、疑問に思いました。
「具体的に、どこが加筆されたのだろうか?」
かつて、江頭会社法の改訂の度に、改訂箇所を特定するという、ヤバい殊勝な作業をしていた方[4]がいたことを思い出し、補訂版と初版(旧版)を読み比べ、変更があった個所を書き出してみました。ざっと読んで気づいた範囲であり、漏れもあると思いますが、ご海容ください。
なお、皆様には、ぜひとも補訂版を買って欲しいという思いから、あえて補訂版が必要な書き方がしております。ぜひ補訂版をお買い上げ下さい。
3 改訂箇所(頁数は補訂版のもの)
- 9頁注1/東京高判平成30年11月28日判時2425号20頁(原審:東京地判平成30年4月19日)[5]の追加
- 14頁/航空法、電気通信事業法の条文番号の変更
- 47頁(Q12)注1/東京地判令和4年6月7日の追加
- 54頁(Q16)注2/東京地判令和4年4月12日の追加
- 63頁(Q21)/「定型約款の規定」の後に条文番号追加
- 75頁(Q27)/航空法、電気通信事業法の条文番号の変更
- 同頁注2/電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン[6]の記載追加
- 79頁(Q30)/第三者提供の条文変更、宇賀克也先生の引用文献変更(新・個人情報保護法の逐条解説[7])、「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&Aの引用番号変更
- 81頁(Q31)/信託契約の成立・変更に係るQを新設
- 94頁(Q37)注1/東京地判令和3年5月19日追加
- 同頁(Q37)注2/東京地判令和4年3月1日追加
- 102頁(Q40)注3/東京地判令和4年3月1日追加
- 112頁(Q45)/「電磁的記録」の例示削除
- 同頁(Q45)注/消費者契約法3条1項3号の改正[8]について追加
- 136頁(Q59)注1/東京地判平成28年10月7日追加
- 136頁(Q59)注2/利用料の値上げに係る考え方追加
以上
[1] https://www.shojihomu.co.jp/publishing/details?publish_id=5330&cd=3041&state=forthcoming
[2] 筒井健夫・村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(2018年、商事法務)
[3] 利用規約といえば、ビジネス法務様で2022年11月から「ITサービスにおける「利用規約」作成のポイント」を、事務所の同僚と連載させていただきました。連載は終わってしまったのですが、中央経済社様のNoteで、スピンオフ企画を定期的に連載しております。こちらも御笑覧いただければ幸いです。
https://digital.chuokeizai.co.jp/n/n9a9b43b56f6f?magazine_key=m40b0b99e37f0
[4] アホオタ元法学部性の日常「江頭会社法の第7版と第6版の相違点からこの2年間の会社法の動きを探る(江頭差分)」(https://ronnor.hatenablog.com/entry/20171225/1514127617 )など
[5] 同高裁判決を解説したもとして、吉川吉衞=福永清貴「約款の包括的変更条項と合理的限定解釈(東京高判平30・11・28) -判例における約款法理の全体像・試論(1)-」経営研究72(3)115頁(https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/04515986-72-3-115.pdf)など
[6] https://www.soumu.go.jp/main_content/000744277.pdf
[7] https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641228221
[8] 改正の概要について、https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/amendment/2022/assets/consumer_system_cms101_220613_01.pdf
また、同号の逐条解説については、https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/annotations/assets/consumer_system_cms203_230915_05.pdf
【追記】
松尾博憲先生といえば、「約款ルールへの対応状況と中期的な課題」ビジネスロージャーナル2020年12月23頁では、約款の変更例を100件検討するという中々ハードな執筆をされております。こちらも名作です。