河童のひとりごと

日々の活動でふと思ったこと等

「定型約款の実務Q&A」の「補訂版」と「初版(旧版)」を比べてみたのでした

1 はじめに~Q&A本の補訂版でましたね。

 

 2023年8月31日、村松秀樹=松尾博憲著『定型約款の実務Q&A』の補訂版が刊行されました[1]。初版は2018年12月5日の発行ですので、約5年ぶりの改訂になります。

 ご承知のとおり定型約款は債権法改正で新設されたわけですが、当初は、解釈に困った際には、立案担当者が執筆した「一問一答」[2]が参照されていました。もっとも、定型約款に絞って掘り下げた検討を行う上記Q&A本(しかも立案担当者が執筆)が刊行されてからは、利用規約[3]等を扱う法務担当者・弁護士の間では、同署が重宝されてきたように思います。

 今回の補訂版も、今後の実務で利用されていくことは間違いないでしょう。

 

2 どこが変わったの?

 

 同書の帯には以下の記載があります。

「定型約款の新設・施行から3年。信託取引に関する記述の追加のほか、定型約款に関する規定の解釈が争われた裁判例を踏まえた補訂版。」

 なるほど、信託取引の点と、裁判例も追加されたことが分かります。他方で、ページ数を見ると初版が205頁で、補訂版が211頁です。そこで、疑問に思いました。

 

「具体的に、どこが加筆されたのだろうか?」

 

 かつて、江頭会社法の改訂の度に、改訂箇所を特定するという、ヤバい殊勝な作業をしていた方[4]がいたことを思い出し、補訂版と初版(旧版)を読み比べ、変更があった個所を書き出してみました。ざっと読んで気づいた範囲であり、漏れもあると思いますが、ご海容ください。

 なお、皆様には、ぜひとも補訂版を買って欲しいという思いから、あえて補訂版が必要な書き方がしております。ぜひ補訂版をお買い上げ下さい。

 

3 改訂箇所(頁数は補訂版のもの)

 

  • 9頁注1/東京高判平成30年11月28日判時2425号20頁(原審:東京地判平成30年4月19日)[5]の追加
  • 14頁/航空法電気通信事業法の条文番号の変更
  • 47頁(Q12)注1/東京地判令和4年6月7日の追加
  • 54頁(Q16)注2/東京地判令和4年4月12日の追加
  • 63頁(Q21)/「定型約款の規定」の後に条文番号追加
  • 75頁(Q27)/航空法電気通信事業法の条文番号の変更
  • 同頁注2/電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン[6]の記載追加
  • 79頁(Q30)/第三者提供の条文変更、宇賀克也先生の引用文献変更(新・個人情報保護法の逐条解説[7])、「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&Aの引用番号変更
  • 81頁(Q31)/信託契約の成立・変更に係るQを新設
  • 94頁(Q37)注1/東京地判令和3年5月19日追加
  • 同頁(Q37)注2/東京地判令和4年3月1日追加
  • 102頁(Q40)注3/東京地判令和4年3月1日追加
  • 112頁(Q45)/「電磁的記録」の例示削除
  • 同頁(Q45)注/消費者契約法3条1項3号の改正[8]について追加
  • 136頁(Q59)注1/東京地判平成28年10月7日追加
  • 136頁(Q59)注2/利用料の値上げに係る考え方追加

 

以上

 

[1] https://www.shojihomu.co.jp/publishing/details?publish_id=5330&cd=3041&state=forthcoming

[2] 筒井健夫・村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(2018年、商事法務)

[3] 利用規約といえば、ビジネス法務様で2022年11月から「ITサービスにおける「利用規約」作成のポイント」を、事務所の同僚と連載させていただきました。連載は終わってしまったのですが、中央経済社様のNoteで、スピンオフ企画を定期的に連載しております。こちらも御笑覧いただければ幸いです。

https://digital.chuokeizai.co.jp/n/n9a9b43b56f6f?magazine_key=m40b0b99e37f0 

[4] アホオタ元法学部性の日常「江頭会社法の第7版と第6版の相違点からこの2年間の会社法の動きを探る(江頭差分)」(https://ronnor.hatenablog.com/entry/20171225/1514127617 )など

[5] 同高裁判決を解説したもとして、吉川吉衞=福永清貴「約款の包括的変更条項と合理的限定解釈(東京高判平30・11・28) -判例における約款法理の全体像・試論(1)-」経営研究72(3)115頁(https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/04515986-72-3-115.pdf)など

[6] https://www.soumu.go.jp/main_content/000744277.pdf 

[7] https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641228221 

[8] 改正の概要について、https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/amendment/2022/assets/consumer_system_cms101_220613_01.pdf

また、同号の逐条解説については、https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/annotations/assets/consumer_system_cms203_230915_05.pdf

 

【追記】

松尾博憲先生といえば、「約款ルールへの対応状況と中期的な課題」ビジネスロージャーナル2020年12月23頁では、約款の変更例を100件検討するという中々ハードな執筆をされております。こちらも名作です。